あたり一面に光が降り注ぐ。
その光はやがてひとつに収縮し、人の形を取った。
日暮れの森は暗い。
その暗さと相まって光はまばゆく、ルカの目は一瞬視界を失う。
その明るさにようやく目が慣れたころ、そこには大剣を背中に担いだラグナスの姿があった。
「相変わらず、姫様の魔法には驚かされる」
感嘆の呟きに、カトリーヌは満足そうに笑った。
「わたくしの力を見くびっていらっしゃったのかしら?」
首を傾げながら答えるさまは、まるでいたずらが見つかった子供のようだ。
そんな姿に、ラグナスもルカも、彼女がまだまだ子供だということを思い知らされる。
普段は大人びているが、ふとした瞬間に彼女は年相応の表情を覗かせる。
それが、二人にとっては嬉しい一時なのだ。
「着て早々で申し訳ありませんけれど、わたくし、すぐにでもサラサ国に参りたいの」
胸元を押さえながら、カトリーヌは呟く。
そんなカトリーヌに二人は、表情を曇らせた。
「カトリーヌ様、お力の使いすぎですよ。これではサラサに辿り着く前に…」
「いいから!!!」
ルカの嗜める声にかぶせるように、カトリーヌは叫んだ。
「早く、早くサラサに行きたいの」
その瞳は真剣そのもので、自分自身の体がどうなっても厭わない。そう物語っていた。
そんなことをしてしまったら、彼が悲しむとは知っていても、カトリーヌの心は遠く離れたサラサにいる彼を強く想っている。
そう感じた二人は顔を見合わせ、どちらともなく溜息をついた。
「分かりました。ただし、ここで少し体を休めてください。ちょうど本部への定期連絡を入れる時間ですし」
「…わかりましたわ」
不服そうな表情を浮かべながら、カトリーヌは木の根に腰かける。
目の前で爆ぜる炎をじっと見つめている彼女をよそ目に、ラグナスは本部への定期連絡を入れる。
「ルカ、ねぇ。フェイは、急に行っても怒らないかしら?」
呟く声は弱弱しい。
会いたい、という気持ちは大きく、しかしそれが彼女の最愛の人にとって迷惑なのではないのだろうかという気持ちとがせめぎあっているのだろう。
そんな少女を見て、ルカは微笑を浮かべた。
「大丈夫ですよ、カトリーヌ様。フェイ様は驚きはするでしょうけど、怒るなんてできないはずですから」
ルカの言葉に、カトリーヌの表情はぱっと明るくなった。
やはり、この少女には笑顔が似合う。
そしてその笑顔を見せる相手は、ルカでもなく、彼女の父親でもなく、彼女の婚約者。
その婚約者も、カトリーヌに甘いのは重々承知なのだが。
「それを聞いて安心したわ。…ちょうど報告も終わったようですわね」
カトリーヌの言葉に、ルカはラグナスのほうをむいた。
傭兵団本部への定期連絡は義務化されているものであり、それには各傭兵の所在確認と任務の進行状況とが含まれている。
「親父のやつ、カトリーヌ様が俺たちと一緒にいるって分かった瞬間に大笑いしてやがった」
ばつの悪そうな顔をしながら、頬の傷を無意識にかいた。
「マグナ様らしいですわ。さあ、そろそろ参りましょうか」
ラグナスとは対照的に、カトリーヌの表情は嬉々としている。
それはきっと、彼女がラグナスの状況を楽しんでいるのと、最愛の婚約者に会えるのと半々だろう。
風が、吹く。
風に舞い上がった炎は勢いよく勢力を増すと、一気に鎮火した。
空は
「サラサへ」
第一章 了