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第一章 出会い―2




「カトリーヌ様、大丈夫ですか?」
「んー…」
 ルカ、と呼ばれていた男に声をかけられて、カトリーヌは目を覚ました。
 薄暗い森の中、大きな木の根の部分に寄りかかっていたらしく、着ていた服は所々に泥がついていた。
「ここ、は?………ああ、国境の森かしら?」
「ええ、そうですよ。さすがカトリーヌ様、コントロールは鈍っていないようですね」
「当たり前じゃない。あたしを誰だと思っているのよ」
 にやり、と笑みを浮かべた男に、いたずらな笑みを返す。
 スカートの裾についた泥を軽く払い、カトリーヌは立ち上がった。
「さぁて。お父様はともかく、あの女はどうでるかしら?」
「うーん…どうやら、サラサの傭兵に依頼したようですね」
「あら、あの女にしては懸命な考えじゃない」
 無邪気に笑いながら、カトリーヌは男の顔をまっすぐに見つめた。
「おじさまにはもう、連絡してあるのかしら?」
「ええ、もちろんです。フェイ様には秘密にしていますが」
「ふふ、それは楽しみだわ。さぁ、もうひとがんばりといきましょうか」


       ☆ ☆ ☆ ☆

 城を出たラグナスは、定期連絡のために用いられる小型の通信機器を取り出した。
 これは彼の傭兵団とサラサ国とが共同で作ったもので、動力の源は魔力とも言われている。
 起動のスイッチを入れると、一瞬ノイズが混じり、聞き慣れた声が聞こえてきた。
『こちらルカ』
「あ、ルカか?今謁見が終わったとこだ」
『お疲れ様ー。で、ご依頼は?』
「それがな…」
 通信機器から唇を離し、ラグナスは周囲を見回した。
 幸い、周りには誰もいないようだ。
 大きく息を吸い込むと、ラグナスは意を決して依頼内容を伝える。
「姫の捜索」
『あ、やっぱり?』
 通信機器の向こうから、クスクスと笑う声が聞こえる。
 それを聞いたラグナスはがっくりと肩を落としながら呟いた。
「なんでお前がそこにいる」
『あら、いいじゃありません?ルカも依頼を受けていることですし』
『まあ、そういうことだからさー。カトリーヌ様のお力でラグナスもこっちまでちょちょいと来ちゃえばいいよー』
「いや、まだ城内にいるも同然だから断っておく」
『まあ、では馬車と船を使ってこちらまでいらっしゃいますの?』
「いや、町外れまで行ったらまた連絡する」
『待ってるよー』
 ぷつり、と通信が途絶える。
 機器を胸元に仕舞いこみながら、ラグナスは大きな溜息をついた。
「こりゃー…ややこしいことになりそうだ」





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