ハウペペル王国は、世界の中心ともいえる国だ。
広大で肥沃な土地を持ち、外交にも強い。
その中でも特出しているのは、現国王の娘であるカトリーヌ王女である。
彼女は神の国と呼ばれる
リン姫は紅華国の中でも優れた神力を持っており、神の生まれ変わりとまで謡われた。
しかしある日、外交にやってきたハウペペル王と恋に落ちた。
そうして生まれたのがカトリーヌ王女である。
カトリーヌ王女は直系の血筋を引き、ゆくゆくはハウペペル王国を治めるものだと、誰もが疑っていなかった。
そう、あの事件さえなければ…。
「やっぱり、この国は何度来ても賑やかだな」
王門の前で、頬に傷を持つ男が呟いた。
彼の名はラグナス。
傭兵の国・サラサからはるばるこのハウペペルに呼ばれてやってきた。
彼の依頼主はこの国の国王。
サラサの傭兵は腕が確かで、各国の上流貴族や王族にもお抱えがいるほどだ。ラグナスはその中でも突出しており、若くして傭兵団の副団長にまでのぼりつめた男である。
ラグナスは懐から通行証を取り出すと、王門に立つ門兵に見せた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「君が、ラグナスかい?」
謁見の間に通されたラグナスは、ハウペペル国王が思ったよりも若いことに驚いていた。
彼がそう思うのも無理はない。ハウペペル国王ケインは、在位20年という短い時間の中で、様々な功績を残していたのだから。
「ラグナス殿、どうかなされました?」
軽やかな声に、ラグナスははっと我に返った。
「申し訳ございません。それで、ご依頼内容はどういった…」
片膝をつき、
王族の前では許しを得られるまで顔をあげてはならぬというのは、彼の所属する傭兵団の中での規則のひとつでもあった。
「うん、それがねー…」
ハウペペル王は、何やら言いにくそうに咳払いをした。
王の隣にはおそらく、王妃が控えているはずだ。
「王、はっきりと申し上げませんと、ラグナス殿がお困りですわ」
「うん…、実はね、ラグナス。内密にして欲しいのだが…」
「わたくしの娘であり、この国の第一王位継承者カトリーヌ姫が数日前、忽然と姿を消したのです。
姫は心臓が弱く、健康面に関しても心配なのです。どうか、早急に見つけて連れ戻して欲しいのですわ」
王妃の言葉に、ラグナスは思わず担いでいた大剣を落としてしまった。