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第二章 熱砂―3





 宮殿の中心にある謁見の間は、六本の大理石でできた柱で支えられている。宮殿の周りを囲うように張り巡らされた水路はこの謁見の間にも同じように巡らされており、灼熱とも言える暑さを幾ばくか和らげている。
 部屋の中心にあるのは国王のために設えられた豪奢な椅子。その一歩後ろには王妃のための椅子も設えられており、それぞれの主がそこに鎮座していた。  透けるような銀色の髪とアメジストの瞳を持つサラサ王は、謁見の間に姿を現したフェンサーソル傭兵団の団長と一言二言話したあと、腕を組んでなにやら難しい顔をしている。
「ふむ…」
「今回の件は、どちらの依頼を優先させるかで国政にも大きくかかわってくると思いますが」
 フェンサーソル傭兵団団長−マグナ・ファウストは片膝をつき、頭をたれたまま王に告げる。
 今回の依頼−それは、カトリーヌ姫の捜索についてだ。
 国交にかかわる問題でもあるため、彼はこうして王にお伺いを立てに来ているのだが、王は難しい顔をしたままで返答はなかった。
 肝心のカトリーヌ姫は現在、諜報員でもあるルカとともにサラサに向かっているという報告があったのは、およそ一日前。
 そしてそれを遡る事一週間前、ひとつの依頼がフェンサーソル傭兵団に舞い込んだ。
 依頼主は渦中のカトリーヌ姫。
 依頼内容は、自身をサラサまで送り届けること。
 その依頼から八日目の昨日、ハウペペル国王からカトリーヌ姫捜索の依頼がされたのだ。
 国政にかかわる王としては、ハウペペル国王の依頼を優先させるだろうと、居合わせた大臣たちは誰もがそう思っていた。
 だが、一筋縄ではいかないこの国王は、後ろに控える王妃としばしの間会話をすると、マグナに向き直った。
「ハウペペル王の依頼は、姫の依頼が完了した後に受ければいい。というかもう、姫、国内にいるし」
 国王の言葉に、大臣たちがどよめく。
 この場で状況を知っているのは、マグナと国王夫妻だけであるから無理もない。しかしマグナは、国王がこの答えを導き出すと承知の上で確認に来たのだから、彼もなかなか食えない男だ。
「陛下、それではハウペペルとの国交に修復しきれない溝が生まれてしまいます!」
「別にいいんじゃありません?その程度で崩れる国交ならば、最初からないも同然」
 毅然と言い放ったのは、サラサの女王−キーラ王妃だ。
「それよりも…カトリーヌが来たんですもの、美味しいケーキを焼いて差し上げなくてはね。あの子は昔からケーキやクッキーが好きで、ご飯なんか食べなかったのよー。その事に関してケイン様はずいぶん悩んだみたいだけれど、リン様は別段気にしていなかったみたいでね……」
 嬉々としながらキーラ王妃は語る。
 ハウペペルとの確固たる国交を築いたのは、このキーラ王妃だ。
 カトリーヌ姫の生母・リン王妃とこのキーラ王妃は親戚関係にある。王妃の兄は紅華国の第二王女と結婚しており、そのころから二人は意気投合していた。それは自然と夫であるサラサ王−カイザとハウペペル王ケインとの間にも波及し、彼らは今や、互いを親友として認め合っている。
 それゆえに言える言葉なのだが、大臣たちは納得のいかない表情を浮かべている。
 やはり、世界一の大国とのパイプが途切れてしまうかもしれないこの状況に、誰もが不安なのだろう。
「キーラ、そのあたりにしておきなさい。マグナ」
「は」
 近くに控えている侍女にあれやこれやと話しかけているキーラに釘を刺し、カイザはマグナを見遣った。
 彼の主である国王の言わんとしている事は、彼にもよくわかった。
「姫君は、わが獅子の紋章にかけてお守りいたします」
 マグナのその言葉に、大臣たちはがっくりと肩を落とした。






第二章 了


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