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第三章 邂逅―2




「――――!!」
 真っ暗な部屋の中、カトリーヌは目を覚ました。
 何か悪夢を見ていた気がするが、思い出したくもない。
 汗ばんだ額を拭おうとして腕をあげる。が、何かに阻まれた。
 不審に思った彼女は、自らの行動を阻む正体を確かめようと暗闇の中目を凝らした。
 風が吹いて、雲を払う。
 
 月明かりに照らされて、それはきらきらと輝きを放った。
「――――フェイ」
 カトリーヌの左手に自らの右手を絡ませ、ベッドに突っ伏している彼。
 カトリーヌが会いたくて会いたくて仕方がなかった彼…
 その姿を見つけた途端に、カトリーヌは花のような微笑を浮かべる。
「…んんー………」
 眠っているフェイを起こさないように、カトリーヌはそっと体を起こした。
 外は暗い。
 何か灯りになるものと、眠っているフェイが風邪をひかないようにとかけるものを探すが、見知らぬ部屋の中。カトリーヌはそれらを見つける事ができなかった。
 困ったように眉を顰めた彼女は、仕方なくフェイを起こすことに決めた。
「フェイ、フェイ。起きてくださいませ。そのままでは風邪を引いてしまいますわよ」
「んー…やめろよ、おふくろ…」
「まあ、わたくしはいつフェイのお母様になったのかしら」
 クスクスと笑いながらフェイの頬を撫でる。
 砂漠の国の夜は冷える。昼間の暑さからは想像もできない位に。
 ひんやりとした空気が室内を包み込むなか、フェイの頬は暖かかった。
「フェイ、起きないとキーラおばさまとマリアお姉さまを呼びますわよ」
 耳元でそっと呟くと、フェイの体は勢いよく跳ねた。
「は…あ?カト?目、覚めたんだな」
「はい、おはようございます」
 まだまだ眠そうな目を擦りながら、フェイはカトリーヌを見つめた。
 新緑の瞳はずっと変わらない、そう思う。初めて会ったあの日からずっと、彼の瞳はまっすぐに前だけを見据えていた。
 そんなフェイだからこそ、カトリーヌも好きになった。
 どうせ長くはない命。
 昔からそう思っていた。けれど、彼に会って、その考えはすっきりとなくなってしまった。
 生きていたい。彼の傍でずっと。
 想いは強くなり、そして彼女は行動に移した。
 箱庭でしか生きられなかった、自分を変えるために大嫌いな薬も注射も受け入れた。大嫌いな継母とも仲良くしようとした。
 けれど自分が知っているのは、あの箱庭のような部屋だけだった。
 だから外に―広い世界に羽ばたこうと思った。
「カト?」
「はい?」
「会いたかった」
 程よく鍛えられた体に包まれると、カトリーヌはそっと目を閉じた。



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